カミングアウト事情:家族編
~皆さん、どこまでカムアウトしていますか?~
私は、自分のことを友人の何人かと妹には話している。
昔に比べたら、LGBTをとりまく環境は劇的に変わった。
LGBTということばが世間に定着したのはここ数年の話だ。
10年くらい前までは、日本で同性愛が当たり前のように受け入れられるのは、あと100年かかると思っていた。
ところが、恐らく広告代理店がプッシュしたおかげもあって、LGBT?いいじゃん別に、的な雰囲気が醸成されてきた。
もちろん、真剣に権利獲得のために動いてきた団体や個人の方の長年の努力の甲斐もある。
LGBTの存在はかなり可視化されたし、さらに公的なパートナーシップ証明書を発行する自治体も出てきた。
一昔前までは考えられないほどの前進だ。
自分自身は同性婚を積極的にしたいわけではないが、少なくとも夫婦別姓ができなければその実現は不可能だと思っている。しかし、近づいてはきているのではないか。
若い世代ほど同性愛に対して受容的だ。
それは生活していれば皆肌で感じていることだろう。
問題は、40代以上の保守的な、家制度にまだとらわれている人たちだ。
男は家族を養って一人前、女は嫁に行き、家庭に入って子育てをするのが人生最大の幸せ。
そんな価値観を持ち、同じことを子どもに期待する親の多いこと!
私もそういった親をもっている。
25歳くらいのころだっただろうか。
彼女を両親に紹介したくて、友人として会ってもらったことがある。
私のこれまでの行動を見て、娘がレズビアンなのではと疑っていた母親は、彼女に対していい感情を持たなかった。
双方のコミュニケーションスキルの不足もあり、この対面はマイナスの方向にしかならなかった。
母は私に対しては、お見合いの話をもってきたり、結婚相談所の入会を執拗に勧めたり、とにかくうるさかった。
学業や仕事に関しては、かなり自由にさせてもらった。お金がなんとかなればどこでもいいと。
住み込みのバイトや留学さえもOKだった。
それが、結婚となると違い、母親は必死だった。
これが幸せなのよ、と言われたときは気が遠くなりそうだった。
ちょっと待って。
父と母は幸せなのか?
お互いに蔑み合い、子どもが目の前にいてもいなくても悪口を言う、このどこが幸せなのか?
大人になるまでは、結婚とは「我慢して嫌な相手と一緒になり、世間には何事もないように過ごしている、繕う人生」だと思い込まされていた。
だって、うちがそうだったから。
だから、結婚はしたくなかった。
お嫁さんになるのが夢、という人が信じられなかった。
仲のいい家族が本当にいるとは信じられなかったのだ。
離婚は大変だけど、この状況で両親は何で離婚しないんだろう、世間体か?と思っていた。
実際そうだったし、経済的にも無理だっただろう。
結婚相談所攻撃が何年か続いたある日、とうとう母親が書類を勝手に書き、私を入会させてしまった。費用は払っておいてあげたからね!と言われた。
あげたとはなんだ。
写真が必要?
もうあきれるしかなかった。
私は一切結婚なんかするつもりはないから退会しろ。
私には私の人生がある。
そのお金を自分のために使え、もっと有意義な使い方があるだろうと母親に伝えた。
困惑して悲しそうな顔をした母親がそこにいた。
今年別れた彼女とつきあい始めた頃、仲のいい友人として会ってもらおうと思い、事前に連絡してとりあえず実家に連れて行った。
前の反省があるので、彼女には近所の喫茶店で待っててもらい、親に「昨日も言ったけど連れてくるよ。今外にいるから。」と伝えた瞬間、母親は出かける準備を始めた。
父親はウェルカムだった。
そして母親は出かけてしまった。
ああ、これはもうだめだ。
母親が娘の同性愛疑惑を感じ始めたであろう時期からもう7~8年経っている。
正面から突破したら母の精神がおかしくなるか、私を病人として扱ったと思う。
でもパートナーのことは知ってもらいたかった、彼女にも私の親に一度会ってもらいたかった。
だから、差し障りのないようにやってみたつもりだった。
一度、友人として会ってもらえばそれでよかった。
でも、この人には私の生き方を理解することなど到底できないと、ここで完全にあきらめた。
10年前の話だ。
それからは実家から足が遠のいている。
親が私を思うようにしたい限り、近づくだけ傷つくから。
不思議なことに、そうなると寂しいのか、くだらないことで私を呼び出す。
PCやプリンターの使い方がわからないから教えろという迷惑きわまりない呼び出しだ。
家にはマザコンの兄がいるだろう?
なぜ兄に聞かないのだ?
そもそも、なぜ兄には結婚を勧めないのだ?
自分の手元に置いておきたいからだろう?
40代半ばにもなって母親に毎日洗濯物を箪笥にしまってもらって、部屋の掃除もしてもらっている兄は、結婚をしていない。
でも母は、兄に一度もお見合いや結婚相談所の入会を勧めたことはないという。
マザコンは母親が作るのだ。
ちなみに、私は兄の姿を10年以上見ていない。
父と兄は20年以上会話をしていないのではないか?
義理の弟(妹の夫)にいたっては幻の存在として話題となっている。
一応正社員として働いているが、家族内コミュニケーション不全の頭がおかしい長男を母親が愛でているだけなのである。
私には妹もいる。
妹は結婚し、子どもが1人いる。
妹には私が26~7歳のときに、女の人と付き合っていることを伝えた。
受け入れてくれるだろうとは思っていた。
だめならだめでしょうがないと思って伝えたら、あっさり「そうなの?いいんじゃない?自分の人生、好きなように生きなきゃね」と言ってくれた。
ほっとした。
さすが妹よ。姉はうれしいよ。
元彼女にも会ってくれた。
これから先、私は母親にはカムアウトするつもりはないし、パートナーができても会ってもらうつもりもない。
父親が会いたいといえば、実家以外のところで会ってもらうだろう。
親戚づきあいが少ないうちは、これ以上私のことを知る人は出てこない。
結局、私がカムアウトした家族は妹だけだった、という話でした。