さおだけ屋
たーけやー
さおだけー
ものほしーの
さおだけー
星也くん(5歳)は、とても好奇心旺盛な子でした。
木登りも虫捕りも鬼ごっこも好き。何かあれば常に探求心を発揮し、のめり込むタイプです。
ある日、家の前で妹や友達と道路にお絵かきをして遊んでいたところ、いつもうるさい竿竹屋のトラックがやってきました。
たーけやー
さおだけー
ものほしーのー
さおだけー
お絵かきをしてても車がゆっくり進むので、よし、ついていってやろうと荷台の後ろを、とことことついていきました。
妹もその後ろからついてきます。
すると、すぐに車が止まりました。ほとんど進んでいない、たぶん10メートルくらいでしょう。
運転席からおじさんが降りてきました。
肩から湯気が出ています。もしかしたら、目の錯覚だったかもしれませんが、星也くんにはもわーっと白い湯気がはっきりと見えたのです。
「おいこらー!!!」
こんなに大きな声は初めて聞きました。
「危ないだろう!轢かれたらどうするんだ!!!」
ここに立て!と命令され、ブロック塀を背に立たされることになってしまいました。
おじさんの説教が始まりました。
大きな声でとても怖いです。言われていることにもどう答えたらいいかわかりません。
なぜ後ろをついてきたのかなんて、面白そうだったからだよ。
早くここから逃れたい…
妹も横に立ってる。大丈夫かな。
「そんなに轢かれたいならやってやるよ。前からがいい?後ろからがいい?」
そんな!やめてくれ…
恐怖で星也くんはパニックになりました。
どうしよう、どうしよう。轢かれちゃう…!
いっしょうけんめい考えました。
前からだとスピードが出る。
後ろのほうがきっと遅いに違いない。
うまくいけば、ハンドル操作を間違って逸れてくれるかもしれない。
考えた結果は「後ろ」しかない。
車が来たら妹を守ろう。
星也くんは意を決しておじさんに伝えました。
「後ろがいいです」
おじさんは呆気にとられました。
目が真ん丸です。
おい、本気で言ってるのか?
本当に轢かれたいのか?
「後ろのほうが…」
おじさんはそれを遮り、鬼の形相になりました。
お前な、轢かれたら死ぬぞ!
だから注意してやってんだ。
本気で言ってるのか?
本当に轢かれてもいいのか!?
星也くんはようやく間違いを犯したことに気づきました。
ここは前とか後ろとかの問題じゃないんだ。
黙るか泣くか謝るか。どれがいいんだろう。
考えたあげく、わからなくて黙って下を向いてしまいました。
するとおじさんはため息をつき、諦めた様子で
おい反省してんのか?
と訊いてきました。
星也くんは頷きました。
早く解放されたい。
妹の恐怖心を取り除いてあげたい。
今はもうそれしか考えられませんでした。
いいかあ!もうやるなよーっ!!!
わかったか?
最後は絶叫に近いおじさんの声が響き渡り、トラックは去って行きました。
しばらく立ち尽くすしかなかった星也くんは、ふと我に返り、横に立っている妹を見ました。
妹はこっちを見て何も言いません。
「帰ろう」
うん、と妹は言い、たった数十メートルまでの家までをとぼとぼと歩きました。
言われたことをそのまま受け取っちゃいけないんだな。
それはわかったけど、咄嗟に判断できないよ。
難しいなあ。
それにしても、おじさん怖かったな…。
星也くんは生きていく術のひとつを学びました。
でも、実践するにはまだまだ成長が必要なようです。
そして、同じような「ちり紙交換」の車を見ても何の反応もすることはなくなりました。
終わり
※これは実話です。
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