死を意識すること
うつ病の身だが、自分でも言うのもあれだが程度は軽く、死にたいと思ったのは数回だけである。
これまではずっと死ぬことが怖いと思ってきた。
今でもそう。
私が初めて死というものを意識したのは、中学校2年くらいのときだったと思う。
その時は、自分が死ぬことを想像し、死んだ後に自我がなくなることに恐怖を覚え、身体が凍りついてしまった。
怖いから考えるのをやめ、また思い出しては戦慄するということを20年以上繰り返し、死んでもいいと思うことも最近何回かあり、今はなんとなく、怖さが薄まっている。
40を越えれば人並みにいろんなことを経験する。人生というものが「わかってきた」のだ。
若い頃よりも衰えた体力、容姿。身体も朽ち果てるという実感が涌いてきてる。
自分というものがなくなるのが何故そんなに怖いのか、私にはわからない。
私はきっと自意識の塊なのだろう。
あのときからだった。
自分もいつかは死ぬのだと本当に理解したのは。
小学校1年生のときに、Gくんという優等生が私の後ろの席に座っていた。
Gくんは人懐っこくて、おとなしい私にも朗らかに話しかけてくれた。
ある日、Gくんが「妹ができるんだ!」と嬉しそうに報告してくれた。
数ヶ月後に生まれるという。かなりの頻度でこれから生まれる妹の話をしていたのを覚えている。
そして、もう名前は決まっているんだ~と満面の笑顔。
聞くと、私と同じ名前だった。真似したな!と思った。
なぜその名前をつけたのかは聞かなかった。聞きたかったが気が引けて、同じだー!と言っただけだった。
彼は本当に楽しみにしているんだな、生まれる前からもうお兄さんなんだな、とそのとき子供ながら感じた。
生まれたら生まれたで、うちの妹はかわいい、こんなふうにあやしている、こんな遊びをした、などとクラスのあちこちに話しまわっていた。
どうやって妹の名前の候補に自分の名前があがったのか経緯はわからない。偶然かもしれないが、気に入って名付けているのは間違いないわけだから、私としても嬉しかった。
時は過ぎ、Gくんは私と同じ中学校に進んだ。クラスは同じではなかったが、相変わらずの優等生だったと思う。
先生からも信頼され、クラスメートもGくんを秀才と言っていた。
彼は引っ越したようだったが、きっと転校するのが嫌だったのだろう、引き続き同じ中学に通っていた。
確か2年生の秋だったと思う。
ある日、友達がとひそひそと教えてくれた。
「ねえ、4組のGくんているじゃん。妹が交通事故で死んじゃったんだって!」
え!?Gくんの妹?あの子!?
息ができなくなりそうだった。
もう何年もGくんとは話していない。妹にも会ったことはない。
でも、妹が生まれるんだよと言っていたときのことは、記憶力の悪い私でも鮮明に、映像の形で頭に残っている。
あんなに可愛がっていたのに…。
「なんかね、目の前でひかれちゃったみたいだよ」
友達は、4組のクラスメート全員がお通夜に行くことを聞き、事故のことを知ったのだと言う。
私が友達から聞いた話はこうだ。
Gくんの家は、たまたま担任の先生と近所だった。
放課後、Gくんの家の近くの道で二人はばったり出会い、話しながら歩いていたところ、反対側の歩道に妹がいたという。
二人に気づいた妹は、すぐさま道路を横切り、「お兄ちゃん!」と叫びながら兄の方向に走っていった。
左右を確認しないで飛び出してしまったのだろう。
バイクにはねられてしまったそうだ。
目の前で妹の事故を見てしまったGくんは取り乱し、半狂乱になっていたという。
担任の先生が一緒にいたことだけが救いだったのかもしれない。
しかし、妹は亡くなってしまった。
お通夜に行ったクラスメートによると、Gくんの家族は大きな声を出して泣いていたという。
事故のあった翌日の新聞を探し出し地方欄を見てみると、小さい記事が出ていた。
私と同じ名前…。
漢字は違った。この字であの読みは珍しいな。初めて知った。
小学生になっていたんだね。
かわいそうだ。妹も、可愛がっていた兄も。
家族の気持ちを思うと涙が出てきた。
たった7年の生涯。
望まれて生まれて、かわいがられても死んでしまうんだ。
そうだ、人は誰だって死ぬ。幸せだったかそうでなかったかは関係ない。
長生きするかしないかの差はあるが、この私にだってそれは訪れる。
そう理解した時、とてつもない恐怖が襲ってきた。
私も、死ぬ。
その日の晩は、布団を被りながらブルブルと震えて過ごした。
数日間はそのように過ごしただろう。
その後、あまりの恐怖に考えるのをやめようと思い立ち、その思考を頭からを振り払った。
あとは冒頭書いたとおりの過程を経て今に至る。
長い年月をかけてようやく少し落ち着いたが、きっかけとなったGくんの妹がいなければ、今頃気付いてオロオロしていたかもしれない。
私と同じ名前の彼女。
みんなから愛されて、きっと幸せな生涯だったに違いない。
願わくは、もう少し長く生きてもらいたかった。。。
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